Special

監督・キャラクターデザイン:安田好孝さん、チーフディレクター:岩永大慈さん、 シリーズ構成:関根アユミさん スタッフ座談会

SPECIAL03

――まずは本作の制作を担当することになった経緯や、本作を初めて読んだ際の印象をお聞かせください。

安田チーフディレクターの岩永から「この作品やりませんか」と原作本を持って来られまして。そこから読み始めて、とにかく面白くて引き込まれました。『さんかく窓の外側は夜』(以下『さんかく窓』)のキャラクターは装飾が少ない、虚飾の要素をかなり排除したキャラクターになっているので、きっとヤマシタ先生は「人間を描きたい人なんだな」と。そう気が付いた瞬間、絵を描くほうも難易度がグッと上がってしまい(苦笑)、これは気を抜けないぞと思いましたね。

関根私はヤマシタ先生の大ファンで、1巻が発売された時からこの作品の存在を知っていました。ヤマシタ先生はどの作品でも人間の業などを描かれる作風だと思うのですが、『さんかく窓』はとくにそこに深く切り込んでいる作品という印象です。この脚本をやりたいなと思いながら1巻を読んでいたので、お話をいただいたとき、作品名を聞いた瞬間に爆速で「やります!」とお返事しました。

岩永実は自分も、アニメを作ることを前提の脳みそで原作を読んでいました。というのも、プロデューサーの机ってアニメ化の企画が来ている原作本がいくつも置いてあるんですよ。それをいくつか読んだときに、この『さんかく窓』は他の作品とは色が違うというか、唯一の色味を持っているなと感じたんです。当時は最終巻まで出ていなくて、続きが気になるという一読者としての気持ちもありつつ、「アニメにしたらこうしたいな、ああしたいな」というのがどんどん出てくる作品だなという印象を受けました。それから少し時間が経って、いよいよ作品を選ぶとなったときに、ぜひ『さんかく窓』をやりたいと推しまして、そこから安田さん、そして関根さんにお願いしたという経緯になります。

――本作を手掛けるにあたり、とくにどのようなことを意識して制作されましたか?

岩永先ほど安田さんも言っていましたが、この作品は「人間」を描いているので、少年漫画のような、怒ったら怒りを画面の端から端まで出す作品とはやりようが違うんですよね。人間って怒っていても、分かりやすく表向きに出ているシグナルと、心の中のサイコメトリックなものは別物じゃないですか。なので、表層的に見えているシグナルと、そこの奥にあるサイコメトリックなものを、常に同時に画面に出す努力を心がけていました。

関根私は「人間を描こう」というのはこの作品にかぎらず、どの作品でも努めていることですが、特段この作品はそこが濃いめという感じがしました。脚本では感情指標をカッコ付けでセリフ内に書くことがあるのですが、それがやや細かくなってしまって……(苦笑)。でも、そうしたほんのちょっとしたさじ加減を、きちんと読み取ってくださってありがたかったです。

安田いや、そこはとくに細かいとは感じなかったですよ。それよりも、2話の学校のシーンで会話が混雑しているところで、脚本会議の時点で画角が限定されたのは初めての経験でした(笑)。

関根あ~、そうでしたね! ヤマシタ先生の作品は一コマの中でセリフを沢山描かれるときがあるんです。漫画というエンターテインメントにおける最大限の見せ方なのですが、それをそのままアニメにすると面白さが死んでしまう場合があるんです。脚本に起こしながら、「ここはこの画作りだから面白いのに!」となったとき、それをできるだけ同じ面白さにするためにどう立体にするかは、すごく意識していた記憶があります。その中でも、2話の学校内の会話はとくに思い出深いシーンでしたね。

安田僕は基本的に物語や画面を作る際、コントラストを意識します。たとえばキャラクターが二人組の場合、必ず片方ともう片方の違い、並んだときに明確に「二人がいる意味」を分かりやすく見せたいんですよね。片方が優れていてもう片方が劣っているというわけではなく、お互い足りないものを補い合うのが相棒である以上、やっぱり二人が並んだときに差が出ないと面白くないですから。今回の作品でも、それはなるべく分かりやすく出したいなと思っていました。

――三角康介と冷川理人のコントラストということですね。この二人の関係性、キャラクター性についてどのように捉えていますか?

安田言ってしまえば、冷川が押しかけ女房みたいな形で一方的に三角を捕まえた感じになるんですけれど、意外に三角は最初からその行為を受け入れているんですよ。でも、冷川は「もっと受け入れてほしい」と自分の願望を言うだけで、受け入れている三角の心の広さにはあまり気が付いていない。最終的にそれに気が付いていく物語だと思って作っていました。

関根一人の人間として受け入れられたことがないから、実際に受け入れられても、それが分からないんですよね。これはリアルの人間関係でもあり得ることで、人間って他人が自分を受け入れてくれるかどうか分からなくて、相手を試したりしてしまうじゃないですか。冷川がやっていることもそういうことだったのではないかと思いました。無意識下で三角を試す行為をしていたんじゃないかと。

岩永僕は、三角は来るものを拒まず去る者は追うような、主人公の色をした正義のキャラクターで、冷川は達観していて、そのまま大人になってしまった赤ん坊という印象が最初はあったんですが……。なんせ作品の深度が深すぎるので、掘れば掘るほど「もしかしたらこうなんじゃないか」「ああだったんじゃないか」とぐるぐる巡ってしまいまして。二人の関係性って、いくら考えても山手線みたいに終着駅がないんですよ。

関根分かります! ずーっと考えていられますよね。ずっと咀嚼できる、みたいな(笑)。

岩永そうです、ヤマシタ先生の術中に見事にハマっていますよね(笑)。実際の人間関係も、初めて出会ったときから関係値は絶対に変化していくじゃないですか。だから最初に受けた印象も正解で、ぐるぐる巡った停車駅もきっと全部正解だと思うんですよ。

安田恐らくヤマシタ先生もそう読み取れるように描かれている気がします。

関根奥行きがかなりありますよね。

岩永なので、ぐるぐる巡る中で感じた、停車駅分だけある解釈を否定しないようには努めましたね。

――制作において、3人でどのような話し合いをされましたか?

安田構成の部分は、関根さんにほぼお任せしていましたね(笑)。その前に、僕とチーフディレクターでビジュアル的な部分での見せ方の話をかなりしました。

関根なので初めてお会いしたときに、どういう絵作りをしていくかという説明をしていただいて。そこから私が構成表を作って……という流れでした。1クールに収めるためには、どうしても駆け足になってしまう部分が出てきてしまうかも……という懸念があったのですが、だからこそ、作品の中に流れるテーマ性は絶対に駆け足にしないと決めていました。そのために、そのエピソードを抽出して、どこに何を移動するかは大分細かく話し合いましたね。

安田折りたたまれた幽霊がジッと見ている話や、虫がボロボロ落ちてくるやつも本当は入れたかったんですけれどね。

関根どこを抽出するかは本当に難しかったです。そんな中で、「このシーンだけは入れて欲しい」と強く言われたのが、冒頭のお肉を食べているシーンです。

安田そこはチーフディレクターたっての希望でしたね。

岩永ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、この物語って始まって終わるまでの間で、地球が破滅するようなピンチを救うとか、そんな大きい変化は何も無いんですよね。ちょっとした気付くか気付かないかの繊細なしこりがあって、それが治ったわけでもなく気付けたくらいのデリケートな物語なんです。で、そんな中で最終話を観たお客さんがこの先を想像していける、感じ取れるものがあったらいいなと思いまして、日常部分をリクエストした次第です。

安田そういえば、1話のトルソーは関根さんのアイデアでしたっけ?

岩永そうですね。

安田あれはよかったですね。バキバキにいい演出になりました。

関根ありがとうございます!本読みのときにもそう言っていただけて、すごく嬉しかった覚えがあります。

――独特の除霊シーンも本作の見どころの一つです。除霊シーンを描くにあたり、こだわった部分を教えてください。

安田1話に除霊シーンがありましたが、正直僕の中でまだイメージが固まっていなかったんですよ。で、幸い1話のコンテはチーフディレクターが描くということで、そこに乗っかろうかなと(笑)。

岩永この先も一度除霊シーンが出るんですが、そこも自分が演出を担当しているので、除霊シーンは全部こっちに来ているんですよね(苦笑)。

関根私のイメージとしては、すごくナイーブなところに触れるというところで、心通わせるよりも早く、無理やり介入するようなものなんだろうなと感じていて。最初の打ち合わせのときに、絵作り的にどうするのか、たとえば物理的に掴んでいるのかなど確認して……結果、私も「お任せしよう!」となりました(笑)。

岩永(笑)。ヤマシタ先生の作品の良さの一つに、明確にせず読者に委ねている部分があると思うんですよね。だから、除霊も原作では「ぶん投げた」と言っていますけれど、それを絵としてこちらが定義すると、この作品の味が落ちてしまう。だから曖昧でいい、それが一番いい見せ方だ、ちゃんと具現化しないことが正解だと考えました。だから見え方的には抽象的で何が起こったか分からないようになっているけれど、そこに観た方の意見が添えられて完成すればいいなと思って作りました。

――バディの二人以外にも魅力的なキャラクターが多く登場します。それぞれのキャラクターを描くにあたり意識されたことや、キャラクターの印象をお聞かせください。

岩永迎 系多は表情がコロコロと変わるんですけれど、その奥にずっとブレていないものがあるというのが、分かりやすく見えるキャラクターですね。人に寄り添ってみせる迎と、一人で行動しているときの迎との差を想像させやすいというか、陰が見え隠れしやすい。そういう意味で、この作品の雰囲気を出すのにマッチングがよかったキャラクターだなという印象です。

安田原作にあった迎の陰の部分を今回は入れられなかったので、それを匂わすか匂わせないかは話し合いましたね。

関根深く踏み込まなくても、発言の大人さからそれを察することができるキャラクターでしたね。他の人たちが割と利己的なことを言う中で、迎だけは多角的に対処してくれるし、すごくバランスのいいことを言うんです。そういう対応できる人、つまり答えに行きついた人は、あえて影の部分を見せなくても、いろいろな人生経験があったのだろうというのが感じとりやすいんだということが再認識できました。

――女子高生で呪い屋というギャップを持つ非浦英莉可については?

安田普通の女子高生という切り口だと、テンプレ的な描写があるじゃないですか。でも、その一方で死を扱い、呪いを日常としているというメンタル面がある。その極端な二つの面を上手く繋げることが難しかったですね。一人の人間として成立させるためには、必ずそこに橋を架けなくてはいけないのですが、最後までそれが上手くかけられた気がしていないです(苦笑)。

岩永その二面性が分かりやすい白と黒ではなく、絶妙な塩梅で描かれているんですよね。主要人物の中で唯一の女性キャラですが、ヤマシタ先生は同情されるような女性を描かないので、悲劇のヒロインというわけでもなく……。話数によって印象が揺れるような感覚がありました。お声を入れていただいた安済知佳さんはじめ、英莉可に関わった方はみな同様に苦労があったのではないかと思います。

関根話数によって印象が揺れるのが、逆にすごく生々しく感じましたね。普通の女子高生が思いがけない力を持ったとしても、自分の力の価値は周りの評価でしか測れないと思うんですよ。自分はたいしたことがないと思っているのに、周りはそれを利用して大きなお金も動く。そういう状況の中に彼女がずっと居たのだとしたら、あの無邪気で残酷なふり幅は生まれてしかるべきなのかなと思いました。

安田リアルに未成年だからこそのものですよね。

関根ヤマシタ先生って、子供を描くときはちゃんと子供に描かれている印象があるんです。それは未熟な人間として馬鹿にして描いているというのではなく、庇護される対象であることを必ず念頭においている……というような感じで。そうならなかった場合はどうなるかを、ものすごく緻密に考えてキャラクター作られているんだなと感じました。

――霊能力を一切信じない、リアリストの刑事・半澤日路輝は?

安田自分がおっさんを通り過ぎちゃっているので、おっさんを描くのは楽だし、カッコいいおっさんは僕ら側としても憧れじゃないですか。だから自分の理想というか、願望を込めた造形にはしたつもりです(笑)。

関根女性から見てもカッコいい人だと思います。ただ癖が強くて、1話Bパートの長台詞がとてつもなく長くて、本当にどうしようかと焦りました(笑)。

安田あそこは確かに長かったですね。

岩永ニュースキャスターのセリフの倍はありましたよ。

関根でも、相手のことなんかまったく気に留めずに、状況を淡々と説明するのが半澤だと判断したときに、「なるほど、これが信じない力に繋がっていくんだな」と理解ができた気がしました。

岩永半澤は英莉可ほど複雑ではなかったですが、アニメにするときの難しさはあるおじさんかなとは思いましたね。おじさん=枯れているという見せ方をすると、大体の男性は喜ぶんですよ。

安田確かに(笑)。

岩永王道だと、ロボットアニメに出てくる渋くてカッコいいおじさんですね。でも、半澤はその枯れたカッコいいとは艶の出方が違うと思うんですよ。正直、半澤以外のおじさんってカッコよく描かれていないじゃないですか。

安田ある種、悪意がこもっているんじゃないかというくらい、カッコよくない(笑)。

岩永それらとは違って、半澤は造形的にもカッコよさがありつつ、内側から、経験則から出る艶みたいなものが加わっていると思います。それと三上 哲さんの声の力も大きいですね。声が加わった瞬間に、絵と声が急に寄り添い合って一つになった感じ……「あと一匙欲しい」という最後を、三上さんが一気に埋めてくださった感じがありました。

――声というと、三角役の島﨑信長さんと冷川役の羽多野渉さんが、ただでさえカッコいい逆木一臣を諏訪部順一さんが演じるのは「ズルい!」と言っていました。

安田あれはもうズルいですよ(笑)。

岩永逆木の騎士的な立ち位置からもカッコよく描かなければと思っていましたが、それに諏訪部さんの声が加わったので、絶対に崩すことは許されないという使命感がありましたね(笑)。

安田そういう意識はありましたが、いかんせん逆木の身長が高すぎるんですよ! いろいろなキャラクターと一緒の画面に居ると、なかなかバランスを取るのが難しかったです。

関根逆木って冒頭は英莉可にとっていい人か悪い人か分からない出方で、ともすれば悪役っぽく見えるんですが、実は英莉可に寄り添ってくれている人なんですよね。見た目や行動は変わっていないのに、中身を描くことで優しさが見えてくるところが書いていて楽しかったです。

――BD&DVDと同時に、ドラマCDの発売が決定しました。こちらは、アニメでは語られなかった原作のさまざまなエピソードが入っているそうですね。

関根アニメだけ観ていただいてもお話は繋がっているように構成していますが、「こことここの間に、これが入っているのでは?」という風にドラマCDも構成していますので、アニメとあわせて楽しんでいただけると思います。音だけの表現であるからこその魅力もつまっていますので、ぜひこちらもドキドキして聴いていただきたいです!

――今後の見どころと、放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

岩永人間を描くということで、誰かと誰かが想いあっていたり、画面に映っている人を想っている人が画面の外に居たり、そうした相関は頑張って作っています。そうした人と人との繋がりを観ていただきたいですね。

安田とくに三角のお母さんの過去の話と、冷川の過去の話はかなり力を入れて作りました。その過去の話がそのまま最終話にリンクしていくので、注目していただければと思います。作品自体がデリケートな中身を扱っているので、なるべく丁寧に考えて描写していきましたし、最終的には非常に綺麗な画面に仕上げることができたと思います。ぜひ撮影監督の斉藤朋美さんの手腕を見てほしいですね。

関根この企画に参加したときに、ヤマシタ先生の作品をきちんと立体にしようという強い意思をこのチームからすごく感じました。ヤマシタ先生にお話を聞きに行き、その内容をスタッフ全員が共有して作れたのが、この作品の強みだと思います。何て言うんでしょうか……「アニメよがり」になっていないというか。

安田初めて聞いた言葉だ(笑)。

岩永でも、言いたいことは分かります(笑)。

関根(笑)。そのアニメよがりな部分がまったく無くて、すごく真摯に作品に向かい合えたと思います。脚本家の方も高山カツヒコさんや金春智子さんといった、一を話せば十伝わって反映してくださる方々ばかりで、その方々だからこそ是非お願いしたい話数を担当して頂くことができました。ヤマシタ先生の作品を心から尊敬しているチームが作ったアニメ『さんかく窓の外側は夜』を何卒よろしくお願いいたします……!

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